アパートの修繕の目安と費用の抑え方 - リフォーム補助金は使える?

アパートの修繕の目安と費用の抑え方 - リフォーム補助金は使える?

アパート経営では、建物のメンテナンスを定期的におこなうことが大切です。しかし、国交省の調査によると、多くのオーナーが修繕計画や費用の積立をおこなっていません。

一方で「将来の修繕にどのくらいの費用がかかるか知りたい」あるいは「長期修繕計画について客観的なアドバイスをもらいたい」と感じているオーナーも、少なくないのではないでしょうか。

そこで、本稿ではアパートの修繕の目安と費用の抑え方をご紹介します。アパートの長期修繕計画や積立に関心があるオーナーさまは、ぜひ最後までご覧ください。

アパートの修繕の目安

建築物は、必ず老朽化します。とりわけアパートでは、老朽化は収益率の悪化につながりますので、関心度が高い問題でしょう。

アパートの老朽化を遅らせるには「どのような修繕がどれくらいの頻度で発生し、どれくらいの費用が必要になるのか」理解しておき、備えることが大切です。

ここでは、アパートの修繕を以下の3つに分け、それぞれの周期や費用についてご紹介します。

  • 原状回復
  • 小規模修繕
  • 大規模修繕


それでは、さっそく解説していきましょう。

原状回復の目安



アパートで身近な修繕と言えば「原状回復」でしょう。原状回復とは、民法第621条や一般的な建物賃貸借契約書に規定されている借主が負う「損傷を原状に復する義務」のことです。

借主は退去の際に、借主の責任(故意や過失、通常の使用方法に反する使い方など)によって生じた損耗やキズ等を復旧しなければなりません。

参考:民法第621条(賃借人の原状回復義務)

よくある原状回復工事の例をあげておきましょう。

  • お部屋のクリーニング
  • クロス張り替え
  • フローリング張り替え
  • ふすま・障子の張り替え


原状回復費用の負担者については、敷金精算等のタイミングでよくトラブルになります。

人口の流動性が高い東京では、このトラブルを防止するために条例(通称:東京ルール)や施行規則を設けているほどです。

参考:東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例
参考:東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例施行規則

上述の条例施行規則によると、経年変化や通常の使用による損耗等の復旧は一般的に貸主がおこなう(第2条)とされています。

例外は、借主の責任によって生じた損耗やキズ等と、当事者間の特約がある場合です。ただし、借主に通常の原状回復義務を超えた負担を課す特約は、裁判で「無効」と判断されることもあります。

原状回復の一般原則については、以下のガイドラインも参考になります。法的な拘束力を持つものではありませんが、貸主さまも借主さまも、ご一読いただくと理解が深まるでしょう。

参考:賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

原状回復の工事代金の金額は、部屋の広さや、汚れ・キズの程度によって異なります。目安としては、クリーニングだけでも数万円から。張り替えが必要な場合は10万円を超えるケースもあります。

小規模修繕の目安



アパートの小規模な修繕は、以下のふたつに分かれます。

  1. 事後的な修繕(事後保全)
  2. 予防的な修繕(予防保全)


それぞれ、詳しく解説しましょう。

1:事後的な修繕(事後保全)



事後的な修繕」とは、不具合を見つけたときに都度おこなう修繕のことです。たとえば、以下のような修繕が「事後的な修繕」に該当します。

  • 設備の不具合
  • 事故や災害等で被った損傷


事後的な修繕の対象となる不具合や損傷は、突発的に発生するケースがほとんどでしょう。

このような不具合や損傷が発生したら、借主には貸主に通知する義務(民法第615条)があり、貸主には修繕する義務があります (民法第606条)。

また、2020年4月の民法611条改正により「賃料の減額が必要な不具合が発生した場合は、賃借人から家賃減額請求がなくとも家賃は減額するのが当然」となっています。

参考:民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)

既出の「東京ルール」でも、借主がその住宅を使用し居住していくうえで必要となる修繕は一般的に貸主がおこなう(施行規則第2条)とされています。

このように、事後的な修繕については年々消費者保護の傾向が強くなっています。細心の注意と復旧の準備態勢、修繕準備金などが必要とお考えください。

突発的に発生する不具合や損傷の修繕費用は、計画することが難しいでしょう。数千円で済むケースもあれば、エアコンの故障や台風による雨漏りなど、10万円を超えるケースもあります。

2:予防的な修繕(予防保全)



予防的な修繕」とは、大きな修繕が必要になる前に予防的におこなう修繕のことです。周期はおおむね1年から数年に1回、あるいは入居者が退去するタイミングで実施されます。

たとえば、以下のような検査および修繕が「事後的な修繕」に該当します。

  • シロアリの検査
  • 外装の状態検査
  • 設備の状態検査
  • 室内の模様替え


予防的な修繕費用は、アパートの規模によって異なります。

大規模修繕の目安



大規模修繕は「予防的な修繕」の一環で、長期修繕計画にもとづいて実施されます。建物の長寿命化につながりますので、コスト面だけでなく「脱炭素」の観点からも重要な修繕です。

大規模修繕の周期や費用の目安は、国土交通省が掲載している以下の資料が参考になります。

参考:国土交通省『民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック』

大規模修繕の費用は、建物の構造や戸数、住戸の間取りによって異なります。詳細な周期と修繕箇所を抜き出し、ご紹介しておきましょう。

▼5~10年目の主な修繕箇所


  • ベランダ・階段・廊下 (塗装)、室内設備 (修理)、排水管(高圧洗浄等)


▼11~15年目の主な修繕箇所


  • 屋根・外壁 (塗装)、ベランダ・階段・廊下 (塗装)、給湯器等 (修理・交換)、排水管(高圧洗浄等)


▼16~20年目の主な修繕箇所


  • ベランダ・階段・廊下 (塗装)、室内設備 (修理)、給排水管 (高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕)


▼21~25年目の主な修繕箇所


  • 屋根・外壁 (塗装・葺替)、ベランダ・階段・廊下 (塗装・防水)、浴室設備等 (修理・交換)、排水管(高圧洗浄)


▼26~30年目の主な修繕箇所


  • ベランダ・階段・廊下 (塗装)、室内設備 (修理)、給排水管 (高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕)


修繕工事の具体的な金額は、劣化診断や見積りを実施して決定します。10年目や20年目の節目の工事は大きな費用がかかりますので、積立があると安心です。

なお、30年目以降も修繕費は必要です。

アパートの修繕費用を抑える方法

さて、アパートの修繕費用を抑えるには、どうすればいいのでしょうか。 ―― ここでは、4つの方法をご紹介します。

  1. 補助金や助成金を活用する
  2. 長期修繕計画を立てる
  3. 計画的な修繕積立を実施する
  4. 既存入居者の満足度アップを図る


順番に、詳しくご説明します。

1:補助金や助成金を活用する



アパートの修繕では、集合住宅を対象としたリフォーム補助金や助成金を利用できる場合があります。とくに、耐震性や省エネ性の向上をともなう修繕は、利用できる可能性が高まります。

いくつか、例をご紹介しましょう。

なお、補助金は募集期間や予算があります。期日や予算に達すると終了となりますので、ご注意ください。

▼長期優良住宅化リフォーム推進事業



「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は、良質な中古住宅の流通促進や子育てしやすい生活環境の整備を図るためにつくられた事業です。

本事業では、既存住宅の長寿命化や省エネ化など、基準を満たす改修に対して支援をおこなっています。ただし、インスペクション(住宅診断)の実施等、たくさんの要件がある点は留意が必要です。

参考:長期優良住宅化リフォーム推進事業

▼住宅セーフティネット制度



「住宅セーフティネット制度」は高齢者や障害者、子育て世帯など、住まい探しに困っている方の支援を目的とする制度です。

日本では、住宅の確保に配慮が必要な方が今後も増加する見込みですが、公営住宅は大幅な増加が見込めません。一方、民間の空き家・空き室は増加していて、これを活用しない手はありません。

住宅セーフティネット制度は、賃貸住宅の改修や入居者への経済的な支援をおこなっています。ただし、登録が必要で、住宅確保要配慮者の入居を拒むことができない点は留意が必要です。

参考:住宅セーフティネット制度について

▼自然エネルギーや省エネルギー機器等の導入費助成



自治体によっては、再生可能エネルギーの利用促進や、省エネ・節電対策をおこなうリフォーム費用の一部を補助しているところがあります。

たとえば、東京都葛飾区では、太陽光発電の導入やLED照明機器への交換をおこなう集合住宅に対して支援をおこなっています。物件の所在地にもこのような制度がないか、ご確認ください。

参考:令和4年度《集合住宅用》かつしかエコ助成金のご案内

2:長期修繕計画を立てる



予防的な修繕をおこなうことで、建物を長持ちさせて建替時期を先送りできます。事後的な修繕で対処するより大掛かりな修繕も抑えられますので、工事費用の削減も期待できます。

アパートの美観を保つと、競争力も維持できます。昨今、不動産ポータルサイトに載る外観写真の印象が内見数を左右しますので、キレイな外観は入居率の向上に役立つでしょう。

長期にわたり住宅の性能が維持できると、家賃水準も維持できます。家賃水準が維持できると修繕資金の確保が容易になりますので、さらに住宅性能が維持できる好循環が生まれます。

3:計画的な修繕積立を実施する



2017年にまとめられた国交省の調査資料によると、多くのオーナーは修繕資金の積立をせず、不具合を見つけたときに都度修繕されているようです。

参考:民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査検討報告書

しかし、大規模な修繕は、成り行きで資金を準備するのが難しいでしょう。結果的に必要な工事ができない、あるいは求める質の工事ができないといったことが起こり得ます。

アパートの品質が維持できなくなると、入居率や家賃水準が低下します。そうなるとさらに修繕が難しくなり、悪循環に陥ります。

アパート経営では「予防的な修繕」をないがしろにできません。修繕積立はアパート経営の原資のひとつと考え、積立金不足を回避することが大切です。

4:既存入居者の満足度アップを図る



退去者がいなければ、退去後のクリーニングが不要になります。次の入居者の募集も不要になりますので、借主に長く住み続けてもらうことが運営コストの低減につながります。

では、どうすれば退去者が減るのでしょうか? ―― 退去者を減らすのに必要なのは、以下のような基本的な対応の積み重ねではないでしょうか。

  • 共用部分はいつもキレイにしておく
  • 予防的な修繕に努め不具合を減らす
  • 設備不良が起きたときは迅速に対応する


借主の「満足度」の向上は、積立や長期修繕計画とつながっています。どれがおろそかになっても、好循環が断ち切れてしまうのです。

好循環が維持できれば、貸主は借主から少しずつ信頼を得られます。積み上がった信頼は借主にとってスイッチング・コスト(切替障壁)になり、借主は安易に転居しづらくなるでしょう。

物件の日々の管理も大切です。コストばかりを重視せず、日ごろからしっかり管理をしてくれる管理会社を見つけることも重要です。

【まとめ】アパートの修繕は長期計画や工事会社探しから

アパートは、必ず老朽化します。その老朽化に対して事後的に対応するのか、それとも予防的に対応するのか ―― アパート経営者にとって悩みどころでしょう。

予防的に対応したほうが、長い目で見ると修繕コストが下がります。建物の美観が維持されるので、入居率の向上や家賃水準の維持にも寄与するでしょう。

しかし、それが分かっていても、なかなか対処できていない大家さまが多いようです。まずは、長期修繕計画や工事会社を探す検討から始めてみてはいかがでしょうか。

このようなご不安ごとが相談できるのは、管理会社だけではありません。東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」でもご相談をお受けしております。

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2020/07/15

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2020/03/01