賃貸マンションを一新するなら?建て替えと大規模修繕どちらがいいか

賃貸マンションを一新するなら?建て替えと大規模修繕どちらがいいか

本稿の概要
・賃貸マンションの建て替えと大規模修繕は、長所と短所があるため比較検討が大切
・建て替えまたは大規模修繕を選択する際は、長期的な視点から判断することが大切
・比較検討する際は、建物の状態や費用対効果、建築関連法規などを考慮する

物件の老朽化が進むと、賃貸経営において大きな選択を迫られます。あなたも「うちの賃貸マンション、建て替えが必要かな?大規模修繕では済まないかな?」と悩んでいませんか?

建て替えと大規模修繕は、それぞれにメリット・デメリットがあり、比較検討が必要です。必要な情報を集めたうえで納得できる判断を下し、方向性を見出しましょう。

本稿では、建て替えと大規模修繕のメリット・デメリットを徹底比較します。建て替えまたは大規模修繕を選択する際の判断基準もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

建て替えのメリット・デメリット

賃貸マンションの老朽化が進むと、オーナーは「大規模修繕か?建て替えか?」という大きな選択を迫られることになります。

とくに、建て替えは大規模な投資となるため、慎重な判断が求められるでしょう。建て替えがもたらすメリットを正確に把握し、デメリットも考慮した意思決定が必要です。

では、建て替えにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?まずは、メリットからご紹介しましょう。

建て替えのメリット



賃貸マンションを建て替えた場合のおもなメリットは、以下のとおりです。

  • 資産価値が向上する
  • 収益の増加が見込める
  • さらなる土地の有効活用を図れる

それぞれ、もう少し詳しく解説しましょう。

▼資産価値が向上する


老朽化した建物をそのままにしておくと、資産価値がどんどん下がってしまいます。顧客から「見た目が悪い」「設備が時代遅れ」といったマイナスの印象も抱かれてしまうでしょう。

建て替えを実施すると、最新の技術や素材を取り入れ、物件の価値を向上させられます。耐震性や省エネ性も大幅に改善されますので、入居者に安心と快適を提供できるでしょう。

また、新築には「しばらく大規模修繕をしなくてよくなる」というメリットもあります。新築時から適切なメンテナンスを実施すれば、長期的に修繕費用を抑制できる可能性も高まります。

▼収益の増加が見込める


近年では、単身世帯の増加やテレワークの普及により、物件に求められる条件が少しずつ変わっています。地域によって、高級志向のニーズもあれば、コンパクト化のニーズもあるでしょう。

このような現代のニーズに合わせた設計を取り入れることで、物件の魅力を高め、競争力を強化できます。空室対策や入居率の向上にも、つなげることができるでしょう。

新築物件は入居者にとって非常に魅力的であり、賃料アップも実現できます。入居者の満足度が向上すれば、退去数が減少して、入居者募集にかかるコストと手間も減ります。

▼さらなる土地の有効活用を図れる


建て替えは、ただ新しい建物を建てるだけでなく、土地を最大限に活かすチャンスでもあります。ニーズや周辺環境の変化に合わせて、より収益性の高い建物を建築できるでしょう。

たとえば、建ぺい率や容積率に余裕があれば、以前よりも大きな建物を建てられます。今までより多くの部屋数を確保できれば、収益の増加が見込めるでしょう。

また、用途変更が可能な場合は、複合施設として開発することも考えられます。オフィスや店舗を併設することで、賃貸収入に加えて商業施設からの収入も得られ、収益源を多角化できます。

建て替えのデメリット



つづいて、建て替えのデメリットをご紹介します。おもなデメリットは、以下の3つです。

  • 高額な初期費用がかかる
  • 収入中断期間のリスクに対処する必要がある
  • 入居者に関するリスクに対処する必要がある

それぞれ、詳しく解説しましょう。

▼高額な初期費用がかかる


建て替えには、解体費や設計費、建築費などの多額のコストがかかります。さらに、入居者への立ち退き料や建て替え期間中の借入金利息なども考慮する必要があるでしょう。

自己資金だけではまかなえない場合は、金融機関からの借入が必要です。金利の上昇局面を迎えそうな昨今では、金利動向や返済期間によっては、高額の融資が大きな負担となる可能性もあります。

建設の労務費や資材価格の高騰も、見逃せません。下落しそうな気配がないだけでなく、今後の世界情勢や経済状況しだいではまだまだ上がることも考えられ、建て替えの障壁になっています。

▼収入中断期間のリスクに対処する必要がある


建て替え期間中、入居者がいなくなるため、その間の家賃収入が途絶えます。この収入の逸失が1~2年続きますので、事前にじゅうぶんな資金計画を立てる必要があります。

小規模の賃貸経営者にとっては、収入のない期間が長引けば、資金繰りが厳しくなる可能性もあるでしょう。場合によっては、他の短期的な収入源を模索しなければならないかもしれません。

▼入居者に関するリスクに対処する必要がある


建て替えにともない、入居者との立ち退き交渉が必要になります。しかし、立ち退き交渉は一筋縄ではいきません。立ち退き拒否や立ち退き料の増額交渉などで、難航するリスクがあります。

入居者にとっては、立ち退きは生活基盤を揺るがす大問題です。とくに、ご高齢者や長期間住んでいる方が多い物件では、交渉がスムーズに進まない可能性が高くなります。

また、建て替え完了後には新しい入居者を募集する必要があります。しかし、競合物件との競争が激化している地域では、入居者の確保が難航するリスクもあるでしょう。

大規模修繕のメリット・デメリット

大規模修繕は、費用や工事期間の面で大きな利点があり、現状維持を目指すオーナーにとっては有力な選択肢となるでしょう。

一方、長期的な視点で考えると、コスト削減や収益性の向上に限界があります。築年数が古くなるほど、修繕では対応できない問題が増えていくため、慎重な判断が必要です。

大規模修繕のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

大規模修繕のメリット



まずは、大規模修繕のメリットを3つご紹介します。

  • 費用コントロールと資金計画の柔軟性が高い
  • 工事と収益回復の期間を短縮できる
  • 入居者への負担を軽減できる

それぞれ、詳しく解説しましょう。

▼費用コントロールと資金計画の柔軟性が高い


大規模修繕の最大の利点は、建て替えに比べて費用を大幅に抑えられるところでしょう。多くのケースでは、建て替えより大規模修繕のほうが、現実的な選択肢になるのではないでしょうか。

また、修繕は段階的に進められるため、すべてを一度におこなう必要がありません。建物の状態に合わせて、部分的に修繕を実施できます。よって、資金計画の柔軟性が高いと言えるでしょう。

著しく老朽化していなければ、修繕をおこないながら建て替えまでの時間を稼ぐこともできます。その間にじっくり検討する時間を取れるところも、大規模修繕のメリットです。

▼工事と収益回復の期間を短縮できる


工事期間が短いことも、大規模修繕の大きなメリットです。建て替えには1~2年かかりますが、大規模修繕なら工事内容によっては数週間から数ヶ月で完了します。

先述のとおり、建て替えは工事期間中の収入が途絶えます。一方、大規模修繕の場合は基本的に入居者の立ち退きは必要ないため、収益の逸失を最小限にできます。

▼入居者への負担を軽減できる


入居者に対する負担が比較的小さいことも、大規模修繕の利点です。繰り返しになりますが、大規模修繕は共用部分の修繕を目的とするため、工事期間中も入居者は住み続けられます。

そのため、退去交渉にともなうトラブルや費用の発生を回避できる点は、オーナーにとって大きな安心材料となるでしょう。

ただし、耐震性向上のために構造の補強が必要な場合や、給排水管の更新による長期間の断水が発生する場合など、退去をお願いせざるを得ない場合もあります。

大規模修繕のデメリット



つづいて、大規模修繕のデメリットを3つご紹介しましょう。

  • 費用対効果に限界がある
  • 収益性の向上に限界がある
  • 根本的な老朽化の課題が残る

それぞれ、詳しく解説します。

▼費用対効果に限界がある


大規模修繕は一時的な延命措置にすぎず、根本的な収益性向上にはつながらないでしょう。むしろ、いずれどこかで建て替えるのであれば、長期的には費用が増大する可能性があります。

建物や設備が古くなると、一般的に修繕コストは上がっていきます。大規模修繕を繰り返すことで、結果的に建て替えよりも費用がかさんでしまうケースもあるのです。

▼収益性の向上に限界がある


大規模修繕によってある程度は賃料を上げられるかもしれません。しかし、建て替えのような大幅アップは難しいでしょう。競合物件が多い地域では、修繕後でも賃料を上げにくいケースもあります。

また大規模修繕では、躯体に関わる改修や大がかりな設備の導入なども困難でしょう。たとえば、天井高のかさ上げや遮音性能の向上、オートロックの導入などは限界があるのではないでしょうか。

しかし、このようなニーズを満たせないと、新築の競合物件に比べて競争力が低くなります。競争力が低くなれば、やはり収益性に影響するでしょう。

▼根本的な老朽化の課題が残る


修繕は、建物の寿命を延ばす対策にすぎず、いずれ建て替えが必要になります。建物の老朽化が進めば、収益性と耐用年数の両面から、いずれ建て替えを実行せざるを得なくなるでしょう。

また、築年数が古い建物は、耐震性や省エネ性でも時代遅れになっています。耐震基準も省エネ基準も法改正で厳格化されていますので、既存不適格(建設時に適法だったが、以降の法改正などで法不適合になった状態)になっているケースもあるでしょう。

とりわけ耐震性の既存不適格を解消しようと思うと、大規模修繕では対応が困難です。

建て替えと大規模修繕、どちらを選択すべき?判断基準を紹介

建て替えと大規模修繕のメリット・デメリットをご紹介しました。建て替えまたは大規模修繕を選択する際は、メリットとデメリットを比較して検討する必要があります。

しかし、単純な比較だけでは不十分で、各物件の状況や将来の計画に応じた総合的な判断が求められます。その際に役立つ判断基準を紹介しましょう。

建物の状態をチェックしよう



建物の状態を正しく理解することが、最初のステップです。建物の物理的状態(築年数や構造、劣化の状況など)を把握するなら、専門家による劣化診断が有効でしょう。

建て替えや大規模修繕は、なるべく出費を抑えたい気持ちからずるずると先延ばしになりがちです。ひとまず劣化診断から始めてみることで、具体的に計画を進めやすくなります。

劣化診断を実施すると、以下のことが明確になります。

  • 本当に建て替えが必要な状態なのか
  • 大規模修繕でどこまで性能を回復できるのか

あなたの物件は、本当に建て替えが必要な状態なのでしょうか?大規模修繕でも、対処できるのでしょうか?―― その答えを、劣化診断で確認してみましょう。

今後必要になる修繕項目や費用、時期などを明確にできれば、建て替えと大規模修繕の費用対効果を比較検討しやすくなります。

また、建物の物理的状態とあわせて以下もチェックしておくと、建て替えまたは大規模修繕を選択する際、どちらが経済的に合理的か判断する材料になります。

  • 競争力:周辺の競合物件に比べてどの程度見劣りするか
  • 収益性の低下:家賃収入の下落や空室率の上昇がどの程度か
  • 基幹設備の老朽化:エレベーターや給排水設備などがいつ更新期を迎えるか
  • 修繕費の増加傾向:賃料収入に対する修繕費の割合が増加していないか

建物の状態をチェックせずに、建て替えまたは大規模修繕を選択するのは賢明とは言えません。不適切な対策を講じてしまい、結果的に期待した効果にはつながらない恐れがあります。

専門家の意見を参考にしながら、建物の状態を的確に把握しましょう。

東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」でも、状況に応じた適切な会社をご紹介できます。気になっている方は、ぜひご相談ください。

長期的な観点から収支を評価しよう



単純に建て替えと大規模修繕の費用を比べると、建て替えのハードルが高いように感じるでしょう。しかし、長い目で見ると「建て替えの費用負担のほうが大きい」とは限りません。

ですから、目先の施工費用だけでなく、長期的な収支の累計を比較することが重要です。将来的に発生する費用や収入への影響も考慮して、収支計算をおこなってみましょう。

考慮したいポイントをあげてみます。

費用の比較大規模修繕と建て替えにかかる具体的な費用を算出し、比較する
将来の収益予測将来の賃料収入や運営コストを予測し、長期的な収益性を比較する
維持管理コスト長期的な視点から、修繕や維持管理にかかる費用を算出して比較する
投資回収期間初期投資額と予想される収益から、投資回収期間を計算して比較する
資産価値の変化建て替え後と大規模修繕後の資産価値の変化を予測し、比較する
税金の影響両方のケースにおける税額を計算して、比較する
土地の有効活用建て替えによって、より収益性を高められるか検討する


費用対効果の評価は、専門性の高い作業です。専門家である不動産コンサルタントや建築士などに相談することで、より精度の高い評価が可能になります。

建築基準法などの法規制も考慮しよう



法規制によって、建て替えまたは大規模改修の選択が制限される場合があります。費用や収益性にも大きな影響を与える可能性があるため、確認しておくことが大切です。

たとえば、あなたの物件は建築基準法の改正により既存不適格になっていないでしょうか?古い建物は、現行の建築基準法に適合しない「既存不適格」になっているケースがあります。

建て替えできるか?大規模修繕の際に、現行法に適合させる必要性はないか?―― など、具体的な影響を確認しましょう。必要に応じて、専門家に相談することが大切です。

影響がありそうなものをあげてみましょう。
耐震基準旧耐震基準で建てられた建物は、対策が必要になる場合がある
省エネ基準近年厳格化が進んでいるため、対策が必要になる場合がある
アスベスト規制強化により、除去や封じ込めなどの対策が必要になる場合がある


容積率や建ぺい率、用途地域などもチェックしましょう。建築可能な規模や用途が制限されます。

たとえば、容積率によって、建築可能な延床面積が制限されます。法改正や規制緩和により、建て替えの際に規模を縮小せざるを得ないケースもあれば、増床できるケースもあります。


建築基準法などの法規制に関するご不明点は、ぜひ私たちにご相談ください。建築や不動産に関する資格を持つコンシェルジュが、お客さまの物件にあったアドバイスをさせていただきます。

建て替えと大規模修繕、双方のご提案も可能です。方向性を決めるところから、私たちコンシェルジュと一緒に考えてみませんか?

まとめ:賃貸マンションの建て替えと大規模修繕で迷ったら専門家に相談しよう

賃貸マンションの「建て替えか大規模修繕か」という選択は、オーナーにとって非常に重要な経営判断です。それぞれにメリット・デメリットがあり、さまざまな要因を考慮する必要があります。

まずは物件の現状をしっかりと把握し、長期的な視点でどちらが最適かを見極めましょう。迷った場合は、専門家に相談してみましょう。より適切な判断ができるようになりますよ。

賃貸マンションの建て替えと大規模修繕で迷ったら専門家に相談しよう
東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」では、現地調査や建物状況の把握、そして収支シミュレーションにもとづく方向性の決定をおすすめしています。

「一度、相談してみようかな」と思われた方は、お気軽にご来店ください。私たちコンシェルジュが、提携会社をご紹介し、方向性の検討からお手伝いさせていただきます。